中室牧子氏の『科学的根拠で子育て』とは?教育経済学のエビデンスと非認知能力の関係性

エビデンスで子育てのレビュー

はじめに

「子育てや教育に正解はない」とよく言われますが、果たして本当にそうでしょうか?中室牧子氏の新著『科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』は、子育てや教育に関する数々の疑問に、科学的根拠(エビデンス)をもとに答えを導き出す一冊です。

本記事では、この本の内容を詳しく紹介するとともに、前著『「学力」の経済学』との違いや、実際に読んだ感想、さらに教育経済学の視点から見る非認知能力の重要性についても深掘りしていきます。

ナビコ
ナビコ

「勉強しなさい!」と子どもに言い続けてきたのに、大人になった途端「勉強だけじゃダメ」と感じてしまうこと、ありませんか?実は、企業が求めるのは「コミュニケーション力」や「主体性」、「チャレンジ精神」など、学校のテストでは測れない力なんです。本書では、成績や受験だけにとらわれず、子どもたちが将来、社会で本当に役立つ力を育てるために、どんな教育が必要かを一緒に考えていきます。

中室牧子とは?

中室牧子の経歴

中室牧子氏は、慶應義塾大学総合政策学部教授であり、日本を代表する教育経済学者の一人です。ハーバード大学大学院(教育学修士)を修了後、国際協力機構(JICA)や世界銀行での勤務を経て、学術の世界へと転身しました。彼女は、教育と経済の関係をデータやエビデンスに基づいて解き明かす研究を行っています。

奈良県出身。奈良女子大学文学部附属高等学校[1]、慶應義塾大学環境情報学部卒業。大学時代は竹中平蔵の研究会で学ぶ[2]。 日本銀行や世界銀行での実務経験を経て、コロンビア大学で博士号取得(MPA, Ph.D.)。専門は教育経済学。2013年から慶應義塾大学総合政策学部准教授、2019年から同学部教授。産業構造審議会委員、革新的事業活動評価委員会(規制のサンドボックス)委員、厚生労働省統計改革ビジョン2019有識者懇談会委員[3]、規制改革推進会議委員。 【出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』】

中室牧子の研究内容

中室氏の研究分野である教育経済学は、教育が個人や社会に与える影響を経済学的な視点から分析する学問です。例えば、学校の教育方法や家庭での子育てが、子どもの将来の所得や社会的な成功にどのように結びつくのかを、データをもとに解明することを目指しています。

『科学的根拠で子育て 教育経済学の最前線』の本の要約

エビデンスベースの子育てとは?

本書では、親が直面する日々の子育ての悩みに対して、科学的なエビデンスをもとにしたアプローチを提案しています。例えば、早期教育の効果や、子どもの非認知能力(自己制御力や協調性など)の育成が、将来的な学業成績や社会的成功にどれほど影響を与えるのか、具体的な研究データを引用しながら解説されています。

中室牧子が示すエビデンスとは

中室氏が取り上げているエビデンスは、国内外の大規模な長期追跡調査や、信頼性の高い実験研究などに基づいています。彼女のスタンスは、「教育や子育てにおいても、感覚や経験ではなく、科学的根拠を重視すべきだ」というものです。

非認知能力とは

非認知能力とは、IQやテストの点数では測れない、社会的・情動的なスキルのことです。具体的には、忍耐力、意欲、協調性、自己コントロールなどが含まれます。本書では、こうした非認知能力が、学力や将来のキャリアにどのように影響を与えるかについて、多くの実例を交えて解説されています。

エビデンスで子育ての見出し

第1章 将来の収入を上げるために、子どもの頃に何をすべきなのか?

将来の収入を上げるために、子どもの頃にやっておくべきことベスト3
スポーツをすることは将来の収入を上げる
スポーツをすると欠席が減り、自尊心が高まる など

第2章 学力テストでは測れない「非認知能力」とは何なのか?

学力テストの点数は将来の収入のほんの一部しか説明できない
非認知能力は結婚や寿命とも関連している
将来の収入を上げる3つの非認知能力 など

第3章 非認知能力はどうしたら伸ばせるのか?

音楽や美術は非認知能力を伸ばす
「好奇心」を伸ばすことに成功した授業
好奇心が高まると知識が定着し、学力も上がる など

第4章 親は子育てに時間を割くべきなのか?

時間投資の効果は子どもの年齢が小さいときのほうが大きい
子どもと過ごす時間の質を高め、学力を上げたパンフレット
「早生まれ」は損をするのか? など

第5章 勉強できない子をできる子に変えられるのか?

目標の力で成績を上げるための3つの条件
お金で釣るのは逆効果になることもある
友だちとチームを組むことで勉強量が増える など

第6章 「第1志望のビリ」と「第2志望の1位」、どちらが有利なのか?

学力の高い友人と同じグループになると学力が下がる
小学校の学内順位は最終学歴や将来の収入にまで影響する
順位は「前回と比べて」どれだけ伸びたかを伝えるのが正解 など

第7章 別学と共学、どちらがいいのか?

別学へ行くと学力は高くなり、女子の肥満が増える
男子校が有利な理由は「ロールモデル」となる同性の教員が多いから
女子校が有利な理由は「ステレオタイプの脅威」が生じにくいから など

第8章 男子と女子は何が違うのか?

競争心の男女差が進路選択や職業、収入の男女格差につながっている
女性がリーダーに選ばれやすい選抜の方法がある
「女性枠」を設けることは男性への「逆差別」なのか?

第9章 日本の教育政策は間違っているのか?

保育料の引き下げは子どもに悪影響を与えた
学力を重視する幼児教育の質は低い
「1人1台端末」政策は子どもの学力を低下させた など

第10章 エビデンスはいつも必ず正しいのか?

今、学校に必要なのは「手術室を1つ空けておく」こと
「エビデンス」を読み解く上で私たちが注意すべき4つのこと
高齢化が進む社会でも、子どもの教育投資への優先順位は高い など

前著『「学力」の経済学』との違い

『「学力」の経済学』では、主に学校教育や学力の向上に焦点を当てていました。一方、新著『科学的根拠で子育て』では、より幅広い視点から、家庭教育や子どもとの日常の関わり方まで掘り下げています。また、非認知能力の重要性が強調されている点も、大きな違いです。

『「学力」の経済学』のレビュー・感想

レビューサイト「読書メーター」では次のようなレビューが見受けられました。

ゲームやテレビは1時間程度なら勉強の時間に悪影響を与えない。子供のやる気を維持するなら、結果よりもプロセスに報酬や賞賛を与えるべき。教育は早いほど教育収益率が高い。特に幼児教育のうちは、自制心ややり抜く力等の非認知能力を鍛えると良い。教育の質は、どれだけ担当クラスの学力を上げられたか?という付加価値で測れる。家庭環境と学校の環境の2つがインプットで、学力はがアウトプット。単に学校の力だけで学力は決まらないが、質の高い先生は家庭環境が悪い生徒でも、良い付加価値を出せる。

冒頭から興味深い内容ばかりで一気読み。データを用いて教育を経済学的に分析されている。学習塾や私立校の費用対効果について書かれているのかと思ったら、少人数学級の効果やご褒美子育て、ゲームの悪影響など範囲はもっと広かった。ご褒美はアウトプット(テストの点数)ではなく、インプット(本を読む、1時間勉強するなど)に近い将来与えることは学力向上に効果がある。一見細やかな教育が実現しそうな少人数学級は費用対効果が低いことに驚く。習熟度別学級は効果的だと思うが、平等主義の保護者から苦情が来るんだろうな。

科学的なエビデンスに基づき、今までの教育の常識とは異なる見地を提示している。 しつけを受けたか受けなかったかにより年収が変わる。少人数学級は代表効果が低い。学力テストの都道府県の順位は、学校教育の優劣を必ずしも示していない。学校で平等を重視した教育は、思いやりや親切心に欠ける大人になってしまう。よい先生の「付加価値」、教員の質の重要性。成果主義は教員の質の向上につながらない。教員研修に教員の質を上げる効果はない。教育に、エビデンスを。 色々と参考になった。

『科学的根拠(エビデンス)で子育て』読んだ感想・レビュー

本書を読んで感じたのは、子育てや教育に関するさまざまな疑問や不安に、科学的根拠が与えてくれる安心感です。特に、非認知能力の育て方や、親が日々の生活で実践できる具体的な方法が示されている点は、すぐにでも取り入れたくなる内容でした。

『科学的根拠(エビデンス)で子育て』のみんなの口コミ・感想・レビュー

レビューサイト「読書メーター」では次のようなレビューが見受けられました。

前作「学力の経済学」から10年、赤子だった娘も10歳になり親の思いどおりにはならないんだよなと実感することが増えてきました。この手の本は付箋を貼って熟読する意識高い親御さんも多いようですが、私は占いの本のようにいいところだけを信じて不都合なエビデンスには「ま、そういうデータもあるよね」とスルーするタイプです。本邦の子育て政策(ICTやら幼保無償化やら)の結果についても疑問視されていますが高校無償化についてもそのうちエビデンスが出そろうのでしょう。

スポーツ・音楽・美術に取り組むことやリーダーの経験を積むことは、「非認知能力」を高める。子どもと過ごす時間の質を高めると、学力が高まる。学力を高める三つの要素=目標を立てる・習慣化する・チームで取り組む。「鶏口となるも牛後となるなかれ」は正しい。習熟度にあった指導が大切。教育行政は、何をするかではなく、何をしないかを決めることが大事。PCに先生の代わりはできない。学力と非認知能力の両方を伸ばせる先生は少ないが、存在する。

子供の収入を上げるにはスポーツ・リーダー・非認知能力(忍耐力、自制心、やり抜く力)が重要。音楽や美術は、非認知能力を伸ばす。好奇心や自発性が能力を伸ばす。親の時間を子に投資する(3~5歳の時に時間をかければ大人になっても効果は持続する)。学力を上げるには目標・習慣化・チーム活動。鶏口牛後となるなかれ、のトピックは面白かった(周りのレベルが高いほど自分の能力も向上するという単純なものではないらしい)。早生まれは損。非認知能力は認知能力を高めるためのベーススキルだから重要なことには納得した。

実際のところそういったエビデンスが生じるのはなぜなのかと考えながら読める面白さがあり(例えば、別学と共学の話とか)、そのうえ最終章のEBPMに関する冷静な議論には肯けるところが多く、望ましい社会のあり方を考える上で良い本が読めたと思います。あとやっぱり、EBPMの浸透した社会になったとしてそれを活用する人間の方に懐の深さというか慎み深さが必要だと思うので、自分自身でそこは意識しておきたいと思いました。

エビデンスが示す明るい未来

中室牧子氏の『科学的根拠で子育て』は、親や教育者に「やるべきこと」を明確に示してくれる一冊です。エビデンスに基づく子育ての方法を学ぶことで、子どもたちの未来をより明るく、可能性に満ちたものにできるかもしれません。

子育てに迷ったとき、教育に行き詰まったとき、この本が科学的な道しるべとして役立つことは間違いありません。ぜひ、多くの方に手に取っていただき、日々の子育てや教育のヒントにしていただければと思います。

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