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本の自炊代行サービスの著作権違法性とアプリを使って家でスキャンする方法

本好き、読書好きの悩みといえば、一度読んだ本の自宅での保管場所ですよね。

本棚も気が付けばいっぱいになり、入りきらない本は平積みにして置いてしまっている。かといって、気に入った本は手元に置いて、ふとしたときにまた読み返したい。

ナビこ
ナビこ
 「夏になったら読む本」みたいに、毎年季節に合わせて読み返したい本もあるもんね。

そんなとき、ふと目に留まったのが「本の自炊代行サービス」というものです。

紙の本をそのまま指定の場所に送れば、本をスキャンして電子化してもらえるというサービスで、数年前から代行業者が複数現れ、タブレット端末や電子書籍の普及とともに少しずつ利用者も増えています。

本は紙で読んでこそ味わい深いという気持ちが強い一方、物量的な問題で手放さなければならないのであれば本末転倒です。そんな折、本の自炊代行を検討し始めたのですが、ふと気になりました。

ナビまる
ナビまる
あれ?これって著作権的に大丈夫なの?…アウトじゃないの?

ということで今回は、本の自炊代行サービスの著作権問題と自宅でOCRスキャンして書籍を電子化できるレンタルスキャナやスマホアプリについてまとめました。

こんなことが書いてあります

本の自炊代行サービスとは?
本の自炊代行サービスの違法性
著作権と利用許諾について
本を自宅で自炊する方法

本は購入した本人の私的利用においてのみ電子化が可能となります。複製したコンテンツをインターネット上にアップロードしたり、第三者に譲渡することは禁止されていますし、違法性のあるものをダウンロードしたりすることも法律で禁止されています。著作者の権利を侵害することなく、作品に対しては適切な対価を支払いましょう。

 

本の自炊代行サービスとは

本の自炊代行とは

「本の自炊」とは、購入した紙の書籍や雑誌を自宅で電子書籍として保管するために、自分でスキャンしてデータ化する作業のことです。イメージスキャナや裁断機を用いて、紙をページ単位で読み取り、タブレットなどで読むことが可能です。

書籍を電子化する際に、データを「自ら吸い込む」ことから「自炊」と呼ばれる。【参考:Wikipedia

本の自炊代行サービス業者

本の自炊は1冊だけでも数百ページを読み取る必要があり、100ページ程度だとしても準備を含めて30分近くの時間を要します。また、自炊には専用のイメージスキャナ、裁断機、画像を鮮明にする照明機器などが必要になり、多数の書籍を自力で電子化する場合にはきわめて非現実的です。

そこに目を付け、一冊あたり100円程度で請け負ってくれるビジネスを始めたのが自炊代行サービス業者です。

主な自炊代行業者一覧
・未来BOOK
・スキャンピー
・BOOK SCAN
・電子書籍化サービス24HR
・電シカ君
・@スキャン
・MEGA SCAN
・本スキャン
・snap book
・Jet-scan

電子化してほしい書籍を自炊代行業者に送ると、数か月後にスキャンしたデータを納品してもらえます。ただの画像データではなく「OCR処理」も行ってもらえるため、本ごとのキーワードやフレーズで検索をかけることも可能になります。

「OCR(オーシーアール)」とは、「光学的文字認識(Optical Character Recognition/Reader)」の略称であり、紙に印刷された文字や手書きの文字をテキストデータとして読み取り、コンピュータ上で利用できる形式で保存する技術です。

一般的な家庭用スキャナでは、文字はあくまでも画像として読み込まれるため、後から文字検索などに活用できませんが、自炊代行業者が用いる専用スキャナの場合は追加料金を払うことでOCR化が可能な場合が多いです。

また、自炊代行業者に本や雑誌を送ると、そのまま書籍実物は処分されてデータのみを受け取ることができるため、引っ越しの際の処分や後片付けに使い勝手がよいと支持されています。

ナビこ
ナビこ
大事な本を捨てるのはしのびないからデータとして残したい、けど大量すぎて自分でやるには時間もノウハウも全然ない!って人に便利よね。

 

本の自炊代行サービスの著作権の違法性

自炊代行の違法性

ここからが本題ですが、ではこの「本の自炊代行」に違法性はないのでしょうか。

自炊代行業者のHPの利用規約には、「著作権者から直接許諾を得てください」「許諾を得ていないものは受理できない」などと明記されていることが多いですが、果たして利用者に罰則などは課せられないものなのでしょうか。

結論を申し上げると、「きわめて黒に近いグレー」です。つまり、「違法と判断される可能性が高い」といえます。

実際に、過去に自炊代行業者が複数の著作権者に訴えられ、最高裁までに及んだ結果、敗訴しています。現在では、自炊代行を依頼した人(利用者)が提訴されたことはありませんが、今後サービス利用者に対しても罰則がないとは言い切れません。

では、なぜ「きわめて黒に近いグレー」なのかを、著作権法を参照しながら解説していきます。

著作権とは

まず、本や雑誌などの書籍には、それをつくった人の権利として著作権が必ず存在します。そして、著作権は大きく二つに区分されており、作品の作者が永久に権利を持ち続ける「著作者人格権」と著作物の利用を許可することで作者が使用料を受け取ることができる「著作権(財産権)」に分けられています。

本の自炊代行において重要となってくるのがこの著作権のなかの複製権であり、作者が複製権を出版社に譲渡している場合は、作者からの許諾だけでなく、出版社からも許諾を得なければ権利侵害となる可能性があります。

著作権の「複製権」について
本のスキャンに関係がある著作権が「複製権」です。複製権は、著作権(財産権)のなかで最も基本的な権利であり、印刷物や写真、映像、音声などをコピーする際にはその許諾を得る必要があります。

著作権は作者の死後70年間保護される

なお、著作権は永久に保護されるわけではありませんが、作者の死後70年間までは保護されるため注意が必要です。

つまり、たとえ作者が亡くなっていたとしても、その権利は作者の親族や出版社に引き継がれているため、権利許諾を継承者から得る必要があるのです。

図1参照:文化庁HP

自炊代行業者は利用者に許諾を得ることを義務づけているが…

自炊代行業者は著作権者の権利侵害にならないように、必ず著作権(複製権)の許諾を利用者が自主的に得るように利用規約で定めています。

ここが、きわめて黒に近いグレーと言える理由です。

なぜなら、一般の人が著作権者一人一人から権利許諾を得ることは難しく、非現実的であるからです。その理由を詳しく解説していきます。

理由①著作権切れ、著作権者の特定が難しい

著作権が切れている場合は許諾の必要はありません。ただし、著作権が切れているかどうかを判断するのは一般の人からすればかなりの手間です。

まず、作品の作者が死後何年かを特定するためには、没年を確認する必要があります。作者によっては没年が発表されていない場合もあり、確認する手段が明確ではありません。

著作権切れを確認する方法の一つとして、著作権の消滅した作家一覧を載せている「青空文庫」で確認することができます。ただし、すべてを網羅しているとは限りません。
青空文庫HP

そして、作者の死後70年が経過しておらず著作権が保護されている場合であっても、その権利を現在誰が保有しているかの確認もきわめて困難です。本には作者の連絡先は記載されていないのが基本ですし、出版社に問い合わせたとしても返答があるとは限りません。

理由②許諾を得るのには時間も費用もかかる

著作権の所有者を確認できたとしても、そこから許諾申請をして利用許諾を得るまでには相応の時間がかかります。

とくに、窓口が作者個人であった場合は、個人の複製利用などの場合はまず取り合ってもらえないでしょうし、仮に連絡が取れたとしても、利用許諾申請書を作成し、利用許諾書を得るまでに少なくとも1か月、遅ければ2か月以上はかかることもあります。

ナビこ
ナビこ
引っ越しとかでもうあまり時間もないのにー!って人も多いだろうし、まして自炊代行業者に頼んでデータをもらえるのにも1か月以上かかるって聞くから、せっかちのわたしには無理ね。

また、利用許諾は無償ではなく、著作権者に使用料を支払わなければなりません。使用料には最低保障金額が設定されている場合が多く、たとえ1回の複製であったとしても2,000円程度を著作権者に支払う必要がでてきます。

文学作品の作者であれば、作者に代わって著作権管理団体が一括で利用許諾申請を受理、許諾をしてくれる場合もあります。代表的な著作権管理団体は次の2団体です。各HPに利用許諾申請フォームがあるので、そこから申請することが可能です。
日本文藝家協会
日本ビジュアル著作権協会

このように、著作権の許諾を利用者個人の自己責任としていることは、現実的には著作権者の権利もサービス利用者の安全性も保障しておらず、ある意味「責任逃れ」であるといえるでしょう。

将来的には電子書籍化が当たり前になってくる

一方で、ここからは余談ですが、将来的には紙だけでなく電子書籍化は当たり前になってきます。

作者によっては、「紙の複製は許可するが、デジタル上の利用は一切認めていない」と規定している人も多くいます。もちろんこれは、横行しているインターネット上の違法複製などから自らの作品と権利を守るための自衛措置ではあります。

ですが、たとえば、2020年度からはデジタル教科書の授業での利用が認められ、各教科書会社が紙だけでなくデジタル教科書も作成している背景を考えると、その措置は一方で自らの作品が多くの人の目に触れる機会を自分で奪っているともいえます。

今後は法整備も進み、人々の著作権リテラシーやモラル教育も充実されていくことから、作者にとっても一般の人々にとっても作品を純粋に読み親しめる社会が形成されることを期待します。

 

本を自炊する方法やオススメアプリ

自炊のアプリ方法

著作権上、本を業者に代行依頼して対価を支払うことはグレーな部分が多いですが、自らが購入した本を自らが自炊する(スキャンして電子化する)ことは可能です。もちろん、電子化したデータをインターネットにアップロードしたり、第三者に提供したりすることは違法です。

そこで、ここでは自宅でできる自炊方法をご紹介します。

方法としては、①スマホアプリを用いて無料でする方法、②専用スキャナーを業者からレンタルする方法 の大きく2種類があります。

本の自炊をスマホアプリでする方法(無料)

Adobe Scan

Adobe Scan: OCR 付 PDF スキャンカメラ

Adobe Scan: OCR 付 PDF スキャンカメラ

Adobe Inc.無料posted withアプリーチ

Adobeが開発運営しているPDFスキャナーです。無償ながら、文書や写真、名刺などあらゆるものをPDF化することができます。「OCR機能」も付いているなので、後からテキストデータだけを読み取ることもできます。

あのAdobeのアプリだけあって、高解像度と高補正のPDF生成が可能で、PCに送ればそのままAdobeソフトで編集ができて便利です。

スキャナーミニ by Readdle

スキャナーミニ by Readdle

スキャナーミニ by Readdle

Readdle Inc.無料posted withアプリーチ

iPhoneやiPadが持ち運びができる携帯スキャナに早変わりするというスキャンアプリです。無料なのに「OCR機能」も付いているほか、自動ゆがみ補正や陰影除去もあるので、書籍も鮮明に読み取れます。

画像はPDFやJPEG画像として保存でき、携帯に保存したデータをPCにメールで送信することが可能です。

本の自炊をレンタルスキャナーでする方法

スキャレン

大型裁断機・ドキュメントスキャナのレンタルショップ「スキャレン」参考:スキャレン.com

自炊するのに必要な「裁断機」と「スキャナー」をレンタルすることができます。レンタルを申し込むと自宅に指定レンタル品が届き、最短1週間の期間であれば何冊でも利用が可能になります。

本を裁断したくない場合には、「非破壊スキャナー」と呼ばれる本を裁断せずとも読み取ることが可能なスキャナーをレンタルすることも可能です。

 

ということで、本を自炊代行するときの著作権上の違法性と自宅でスキャンするのに必要な機器などについてまとめました。

本は読まれてこそ本たるので、そういう意味ではただ捨てられてしまうだけだった本に、新たな息吹を与えてくれる自炊代行サービスは一概には否定できません。今後は人々の著作権モラルが向上し、本に関わるすべての人がその価値を享受できるようになればと願うばかりです。