2022年には高等学校の学習指導要領が全面改訂され、情報科では従来の「社会と情報」「情報の科学」(いずれも選択必履修)がなくなり、新たに「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」が新設されます。とくに「情報Ⅰ」は必修科目となるため、すべての高校生が学校の授業で学習することになります。はたして、学校の授業はどのように変わっていくのでしょうか。
今回は、2022年より新設される「情報Ⅰ」について、新学習指導要領ではどのような目標を掲げており、それによって学校の授業がどのように変わっていくのかを考察します。
情報科改訂の背景とは?
授業はどう変わるの?
プログラミングも習う?
大学入試への影響は?
昨年の国公立大学の現役合格6,000人、私立大学の現役合格20,000人突破!休校中の復習から共通テスト対策までが自宅でできる進研ゼミに入会する高校生が増えています。塾と比べて圧倒的コスパを実現できるので、まずは無料資料請求をしてライバルと差をつけよう!
目次
情報科改訂の背景と変遷
情報科改訂の背景
2020年から始まる小学校プログラミング教育の必修化が象徴するように、ICT教育や学校現場レベルでのIoT化が進行しており、社会は情報通信社会の次のステージといわれる「Society5.0」へと変革の道を歩んでいます。
新課程の学習指導要領では、教科横断的に求められる資質・能力として「情報活用能力」を重視しており、従来の国語や数学といった教科のなかでも「情報」の位置づけがより高いものへと変わってきています。
そのような教育全体の流れを受けて、情報科で新設される「情報Ⅰ」はすべての高校生が必修の科目となり、これからの情報社会を生きるうえで必要な情報モラルや情報リテラシーを学ぶことになります。
Society5.0についてはこちら!
情報科改訂の歴史
2003年度 | 情報A 2単位 |
情報B 2単位 |
情報C 2単位 |
2013年度 | - | 社会と情報 2単位 |
情報の科学 2単位 |
2022年度 | 情報Ⅰ 2単位 |
情報Ⅱ 2単位 |
情報科という教科の歴史はまだ浅く、2003年(平成15年度)に高等学校ではじめて新設されました。
当初、「情報A」「情報B」「情報C」の3科目で、このなかから1科目を選択すればいい選択必履修でしたが、科目選択は生徒ではなく学校側にあることから「情報A」を選択する学校が約8割と偏りが生じました。
2013年度からの現行学習指導要領によって「社会と情報」「情報の科学」の2科目に再編され、「情報B」が「社会と情報」に、「情報C」が「情報の科学」に置き換わるかたちで、「情報A」は実質的には消滅しました。
「情報A」の内容は、一部が義務教育課程で学習されるようになったり、一部が「社会と情報」「情報の科学」に組み込まれたりすることで、分散・吸収されました。
2科目からの1科目選択履修に変わりましたが、依然として科目選択は学校側にあることや大学入試で情報が教科として出題されないなどの理由から、専門的な知識がなくても教えやすい「社会と情報」を選択する学校が約8割と偏りが出ているのが現状です。
情報科の課題
情報科は授業時数も少ないことから、情報科専任の教師を設置できている学校は少なく、約半数の情報科教師が他の教科(数学や公民など)との兼任という状況が続いています。
(参考:「高等学校での情報科教育の実情と課題」/私立大学情報教育協会より)
学校によっては、情報科の教員免許を持たない免許外教科担任や臨時免許教師が対応することもあり、2022年度からの新課程で必修となる「情報Ⅰ」の課題といえます。
「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の内容(単位や履修)
情報Ⅰと情報Ⅱの内容
情報Ⅰ(必修科目)
⑴情報社会の問題解決 | 情報を活用した問題発見・解決や情報モラルの構築 |
---|---|
⑵コミュニケーションと情報デザイン | メディアの特性とコミュニケーションの手段を理解する |
⑶コンピュータとプログラミング | プログラミングやアルゴリズムを考え、表現する |
⑷情報通信ネットワークとデータの活用 | 情報セキュリティを確保するための方法や技術を理解する |
情報Ⅱ(選択科目)
⑴情報社会の進展と情報技術 | 情報社会の歴史や将来の発展を考える |
---|---|
⑵コミュニケーションとコンテンツ | 文字・音声・画像・動画コンテンツを制作する |
⑶情報とデータサイエンス | 多様で大量のデータを収集・整理・分析する |
⑷情報通信システムとプログラミング | 情報システムを構成するプログラムを制作する |
⑸情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探求 | 身につけた情報活用能力から新たな価値を創造する |
情報Ⅰと情報Ⅱの単位と履修
「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」ともに標準単位数は2単位です。
「情報Ⅰ」はすべての生徒が学習する共通必履修科目で、「情報Ⅱ」は情報Ⅰの発展的な内容を扱う選択科目となっています。
学習指導要領から読み取れる「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の関係性については、「情報Ⅰ」が現在の情報技術が社会や人にもたらす影響や情報モラルについて理解を深めるのに対し、「情報Ⅱ」はデータサイエンスを用いて考えられる将来の情報技術や社会の展望といった発展的な内容です。
情報の授業はどう変わるのか
情報科で身につける資質・能力
2022年度より実施の学習指導要領下の情報科では、他教科同様に3つの柱で身につけるべき資質・能力が掲げられています。
(参考:「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」文部科学省より)
知識及び技能 | 情報についての知識や技能、情報を活用して問題発見・解決する方法、情報の制度やマナー、情報社会と人の関わりについての理解 |
---|---|
思考力,判断力,表現力等 | 複数の情報を結びつけて新たな価値を見出す力、情報技術を適切かつ効果的に活用する力 |
学びに向かう力,人間性等 | 情報セキュリティを保つ態度、情報社会に主体的に参画する態度 |
情報Ⅰの授業イメージ
すべての高校生が必修となる「情報Ⅰ」の授業の方向性について、4つの内容(①情報社会の問題解決 ②コミュニケーションと情報デザイン ③コンピュータとプログラミング ④情報通信ネットワークとデータの活用)に分けてまとめています。
(参考:「高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材」/文部科学省より)
①情報社会の問題解決
情報やメディアの特性を踏まえながら、問題を発見・解決するための方法を考えます。と同時に、情報に関する法律やマナーといった情報モラルについても理解することが求められます。
たとえば、テレビや新聞などのマスメディアが発する情報とインターネットやSNSによる不特定多数が発する情報のちがいについて理解したうえで、課題を解決するために利用すべき情報を選択し、信頼性の根拠や選択した理由を議論し、発表するような授業が考えられます。
②コミュニケーションと情報デザイン
①における情報発信者側の視点や方法を発展させるかたちで、情報を受け手に対して分かりやすく伝えるコミュニケーション手段やコンテンツ表現といった情報デザイン全般を考えます。ただ表現して終わるのではなく、効果的な方法にたどり着くための評価や改善をはかるところがポイントです。
たとえば、ある事柄を生徒全員に電子情報として表現させ、分かりやすく伝わりやすい情報の位置や設計、コンテンツ内容、情報に接触するまでのコミュニケーションなどについて話し合い、評価・改善していくといった授業が考えられます。企業の広告担当者を招いて、実際に商品ターゲットに分かりやすく伝える手法を考えるといった授業も想定できます。
③コンピュータとプログラミング
より実践的な授業として、コンピュータを用いてアルゴリズムを表現し、プログラミングを組み立ててモデル化やシミュレーションを行い、コンピュータを最大限活用する能力を養います。
ビジュアル型のプログラミング言語が分かればよい義務教育課程とは異なり、アルゴリズムやHTML、コーディングといった専門的なプログラミング知識や技能についても授業で触れられることになりそうです。また、モデル化とシミュレーションについては、「数学A」の「場合の数と確率」とも関連が深く、教科横断的に学習することも求められます。
④情報通信ネットワークとデータの活用
既存の情報通信ネットワークやサービスを活用し、情報を収集・整理・分析するといったデータサイエンスの知識や技能が求められてきます。2022年にはAI技術やICT教育のさらなる発展が考えられ、データを適切に活用する能力を養います。
「数学Ⅰ」の「データの分析」とも関連が深いことから、やはりここでも教科横断的な授業が実施されると予想されます。
「情報」と大学入試・中学入試
大学入試で「情報Ⅰ」が入試科目に
2020年1月をもって廃止となる大学入試センター試験では、情報は入試科目としては扱われていませんでしたが、後継となる「大学入学共通テスト」では、2024年度(2025年1月)から「情報Ⅰ」が入試科目となります。入試で課すかどうかは各大学の判断によりますが、国語や数学といった入試基礎科目と同様の位置づけとする学校も増えてくる可能性があります。
中学入試で増えるプログラミング型入試
中学入試でも、近年は国語や算数といった偏差値に捉われない学力を測定する入試が増えています。
・駒込中学校「STEM入試」
・相模女子大学中学部「プログラミング入試」
・大妻嵐山中学校「みらい力入試」
・聖学院中学校「思考力ものづくり入試」
・順天中学校「多面的入試」
大学入試改革とあわせて中学入試でもプログラミング入試が今後ますます増えていくことが予想されます。早くからプログラミング学習の下地を作っておく必要がありますし、子どもだけでなく保護者自身のプログラミングに対する理解や知識をつけることも必要になってくるでしょう。