2020年4月28日、全国の学校で休校要請が続く最中、奈良県教育委員会が先駆的ともいえる驚くべき取り組みを開始したと発表しました。それは、県内すべての小中高特別支援の国公立学校を「G Suite for Education」のもと一つのクラウドプラットフォーム内に管理し、実現が迫るGIGAスクール構想およびソサエティ5.0時代に適合していくというものです。
新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後を「アフターコロナの世界」とも言われているように、人々の生活やくらし、働き方は著しく変化が起きます。それは教育の場においても例外ではなく、すでにオンライン授業や9月入学案が議論されているように、数か月前まではまったく想像もしていなかったような世界が待っていることは明らかです。
そういった状況に対して、一つの具体的解決モデルを提案してくれるのが今回の「奈良県同一ドメイン計画」だといえるでしょう。都道府県レベルですべての学校を一元管理するというのは日本初の取り組みであり、その動向は県外問わず多くの教育者から注目されています。
そこで今回は、奈良県の学校同一ドメイン化およびGSuite導入による意義やメリットについて深掘りしていきたいと思います。
G Suite for Educationとは
奈良同一ドメインのメリット
今後の日本の教育の変遷や可能性
目次
奈良県教委の「G Suite for Education」導入背景
まず、奈良県が「G Suite for Education(以降、GSuite)」を導入するまでの背景を整理します。なお、GSuiteが何かについてはこの後に触れています。
4月24日、奈良県は独自に「新型コロナウイルス感染症にかかる対応方針」をまとめました。これは、4月16日に緊急事態宣言が全国の都道府県に拡大されたことを受けての方針であり、在宅教育の期間やそのガイドライン、学校再開後の登校などについて検討が開始されたことを伝えるものでもあります。
【参照:「新型コロナウイルス感染症にかかる対応方針」/奈良県教育委員会】
そのなかでオンライン教育における学習評価方法について、学校・学科における実証研究を実施することが示されています。具体的には下記の県内学校において、Google社の支援も受けながら、GSuiteを活用してテストを実施したり、生徒の学習状況を調査するというものです。
・西の京/平城/登美ヶ丘
・吉野(農業・工業)
・奈良情報商業
・榛生昇陽(福祉)
この研究は、文科省によって以下のことが一定条件化で認められるように通知されたことで、
- 休校中の家庭学習を成績評価に反映すること
- 休校中の家庭学習を再開後に再度授業をしなくてもよいこと
奈良県独自に成績評価の基準を設定するためにも、オンライン学習の実施状況やその学習効果を正しく把握することにねらいがあります。
つまり、学校が再開した後に教育現場が混乱しないように、成績評価の基準となるものを県教委が示すことができるようにGSuiteの活用を開始したことを意味します。(実際は発表よりも前から様々な用途で活用されていた可能性は高いですが)
そして、その発表から約2週間ほどで奈良県教委は県内すべての国公立学校にGSuiteを導入し、一つのクラウドプラットフォーム内ですべての情報を管理・一元化することを宣言したのです。
G Suite for Educationとは
「G Suite for Education公式HP」
G Suite for Educationの基本機能
- Gmail
大容量メール - Googleカレンダー
プロジェクト別の共有 - Googleサイト
クラス単位の共有ワークスペース - Googleドキュメント
書類や資料の作成 - Googleスプレッドシート
表計算やアンケート作成 - Googleプレゼンテーション
スライド作成やデータ公開
そのほかにも、「Google+」を利用したローカル掲示板、「Hangout Chat」を利用した1対1や複数でのチャット、「Hangout Meet」を利用したWEB会議など、実に豊富なアプリケーションが用意されており、生徒や教師はいつでも無料で利用することができます。
また、現在GSuiteでは休校期間中の学校を対象とした「遠隔学習支援プログラム」を実施しています。これは、GIGAスクール対応PCでもあるChromebookを無償貸出したり、遠隔学習用のオンラインコンテンツを提供したりしてもらえるプログラムで、全国の多くの学校・自治体が利用し始めています。
「遠隔学習支援プログラム」
長引く臨時休校によって家庭学習が強いられるなか、生徒や保護者のみならず、学校の先生たちも先行き不安に陥っていますが、その不安を解消するうえでも、すべてが一つで完結する「オールインパッケージ」であるGSuiteの導入は必然となってきそうです。
G Suite for Educationの4つのメリット
GSuiteのメリット①「場所や時間を気にしない情報共有」
アカウントを割り振られた者であれば、24時間いつでもどこからでも共有サーバー内にアクセスすることができ、必要な資料やデータ、写真などを閲覧・ダウンロードすることが可能です。
また、メールやチャット、WEB会議などをすぐに立ち上げられるため、目的やグループ別のクローズドなコミュニケーションも円滑に行うことができます。
GSuiteのメリット②「リアルタイムの共同作業」
情報を一つのプラットフォーム内で管理するため、複数人によるリアルタイムでのデータ編集が可能です。
参照資料も同じところで管理できるため、データ作成も容易になり、同じデータを別の場所でも作成して二度手間になってしまうといったことも防げます。校務負担軽減による教師の働き方改革を推し進めるためにも、書類作成の効率化は必須の条件となります。
GSuiteのメリット③「ITインフラコストの削減」
GSuiteの最大の強みがインターネット環境さえ整っていれば、独自のサーバーやソフトウェアを購入、管理する必要がないところです。機器のメンテナンスの必要もなく、ソフトウェアのアップデートはGoogleが自動で実施してくれるため、従来要していたような管理コストが大幅に軽減できます。
学校単位で管理する必要もないため、教師の人件費コストも削減できますし、教師が生徒指導や授業準備に十分な時間を割くことが可能になります。
GSuiteのメリット④「安全なセキュリティ対策」
GSuiteはセキュリティ体制も万全です。ハッキングもされにくく、アクシデントが起こった際にも迅速な障害復旧サービスが組み込まれているので、たとえば災害時にもシステムダウンすることなく、生徒と学校が連絡を取り合うことができます。
学校の情報は個人情報であふれており、万が一流出が起こった場合には取り返しがつかないことになります。その点、世界一のプラットフォームビジネスモデルであるGoogleは、やはり情報保護に関しても最も信頼ができる企業の一つです。
奈良の学校同一ドメインの意義・メリット
生徒の情報を進学時に引き継ぐことができる
小学校から中学校、中学校から高校と県内進学した場合、生徒の成績や学習状況、進路希望などすべてを引き継ぐことが可能になります。
これはつまり、これまでは進学によって学校間で失われがちであった生徒の個人情報が引き継がれるため、長ければ小~高までの12年間一貫した学習指導が可能になることを意味しています。
たとえば、新入学の中学1年生に対して、中学校側は生徒の小学校時代の学習履歴や家庭での学習状況を確認でき、それによって普段の授業や個別指導などにも役立てることができます。まさしくソサエティ5.0で掲げる「個別最適化教育」を体現する教育システムとなり得るのです。
遠隔地の子どもも等しく教育を受けられる
GSuiteによって県内の学校であれば同じクラウドプラットフォームを利用することになるので、住んでいる地域や学校、家庭によって教育に格差が生じにくくなります。
たとえば、教育費にかける予算は自治体によっても変動しますが、GSuiteを導入すれば同一プラットフォーム内で同一コンテンツを利用できるようになるため、予算が足りないから他の地域と同じ教材やEdtechサービスを利用できない、といった状況を減らすことができます。
また、学校が異なる教師間の情報交換やデータの共有、研修実施なども都道府県レベルで実施が可能となり、これまでは不可能であった大規模な教員研修や研究テーマもコストを分散させることで実施できるようになってくるのです。
とくに、首都圏に比べて遠隔地の地方では教員の人数が乏しかったり、学習塾が実施するような学校外模試を受講する機会が少なかったりと、住んでいる場所によるハンディが存在していましたが、GSuiteで学校を一つのプラットフォームに集約することで、それらの格差を是正することができます。SDGsの目標でもある「すべての子どもたちに等しい教育」を体現することが可能になるのです。
生徒調査書の作成も不要になる
国公立の学校は推薦入試の際に、在籍している学校が生徒の調査書(出欠や成績、活動履歴など)を出願時に作成する必要があります。これは、学校の担任や校長が受験を希望する生徒の分、そして受験する学校の分作成しなければならないため、大きな校務負担として問題視されていました。
最近では私学の学校ではインターネット出願が一般的になっており、調査書は不要とする学校が増えていますが、国公立の学校にいたっては紙での調査書郵送が基本となっています。
これらの課題も、同一ドメインとすれば調査書に記載していた生徒のデータを進学先の学校が確認できるようになるので、学校の校務負担軽減につながっていきます。
受験生や保護者にとっても調査書作成の依頼をする必要がなくなる(調査書は保護者が学校に個別で依頼することが一般的)ことから、その心理的な負担も減らすことができるでしょう。
不測の事態にも都道府県内で一律に対応できる
今回の新型コロナウイルスによる休校措置のように、想定外の事態が起きたときにも都道府県内レベルでの対応を迅速に行うことができます。
優れた取り組みや研究成果を円滑に共有し合うことができるため、学校もその学校内だけで問題に対処しようとするのではなく、縦や横とのつながりを持ちながらより効果的な対応を見せることができるでしょう。
休校中のオンライン授業の事例紹介や研修も実際にGSuite内で共有されており、県内の学校、自治体、教育委員会が一枚岩となって対応することが可能になります。
この奈良県の先進的な取り組みが成功すれば、今後ほかの都道府県や自治体も導入していくことが予想されます。生徒や保護者、教師のことを考えれば、非常に画期的で意義深いものであることにちがいありません。一方で、日本の教育をオールインワンで海外の一企業に任せてしまうことには少しばかりの危惧を覚えます。今や世界のプラットフォームを牛耳るGAFAですが、ますます日本における地位を確固たるものへと変えていくでしょう。
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