近年、爆発的な成長を見せているeスポーツ市場ですが、ビジネスの場だけでなく教育現場においても様々な期待が膨らんでいます。
そこで今回は「eスポーツ×教育」の可能性について、はじめてeスポーツという言葉を知った方にもわかりやすくまとめました。
・そもそもeスポーツとは何か?
・eスポーツの課題や問題点は?
・eスポーツと教育の関わりは?
・eスポーツの授業イメージは?
目次
eスポーツとはなにか?
「eスポーツ」は、1990年代後半に競技ゲームの大会に多額の賞金をかけたのを皮切りに、情報社会の興隆にあわせて年々拡大している「新しいエンターテイメント競技」です。
eスポーツ(esports)とは「エレクトロニック・スポーツ」の略称であり、PCやスマホ、ゲーム機器を用いて、複数の競技者が対戦したり競い合ったりするエンターテインメント性のあるコンピュータゲームのこと。
eスポーツとスポーツの違い
eスポーツが「スポーツ」という言葉を使用しているのは、野球の試合やサッカーの試合のように、プロ競技者の試合を多数の観客が楽しむ興行スタイルであるからであり、一般的な「体を動かす」というイメージの「スポーツ」とは異なります。
たとえば「ぷよぷよ」のようなパズルゲームや「クラッシュ・ロワイヤル」のようなストラテジーゲーム(戦略ゲーム)もeスポーツの一つです。
eスポーツを取り巻く状況
日本国内のeスポーツの状況
・2018年日本eスポーツ連合(JeSU)設立
「日本eスポーツ連合」
・2018年日本初のeスポーツコースが通信制高校に開講
「ルネサンス高等学校」
・2019年全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)設立
「全国高等学校eスポーツ連盟」
・2019年北米教育eスポーツ連盟(NASEF)日本支部開設
「北米教育eスポーツ連盟」
日本国内では、ここ数年でようやくeスポーツという言葉が「市民権を得た」という状況で、昨年あたりから様々な教育整備や取り組みが始まっています。
中国のeスポーツの状況
世界的に見て、最もeスポーツが盛んな中国は次のような状況です。
・プロのeスポーツチームは約5000チーム
・プロのeスポーツ競技者は約10万人
・eスポーツ観客数は約3億人以上
・eスポーツ市場規模は約155億ドル以上
・各都市がeスポーツを職業として認可の動き
(「ファミ通.com」より)
欧米やインドネシア・タイ・ベトナムなどの東南アジアのeスポーツ市場規模も年々増加しており、世界的に見ると2024年パリ・オリンピックで正式種目化の動きも出ています。
日本のeスポーツ市場規模も、2017年では340万ドルだったものが、2022年には9,080万ドルに急成長するとも言われており、eスポーツがビジネスだけでなく社会においても重要な位置付けとなってくることは想像するに難くないです。
eスポーツに対する批判的意見や問題点
日本はゲーム立国ともいえるくらい様々なゲーム関連企業があり、eスポーツで認可されているゲームコンテンツも日本企業が制作したものが多いです。
それにもかかわらず、日本国内でeスポーツが普及してこなかったことにはどのような背景があるのでしょうか。
eスポーツのネガティブな意見
ゲーム依存について
そのようなゲーム依存に陥ってしまう子どもたちが近年増えており、世界保健機関(WHO)も精神疾患として認定しています。
低年齢化が進むスマホ普及や小学生一人一台PC導入のGIGAスクール構想によって、ますます子どもたちのゲーム依存は看過できない社会問題となってきており、
それに拍車をかける懸念事項として、eスポーツを批判的な目で見る人が多かったのが日本国内の実情でした。
こうした日本国内の印象や雰囲気もあって、なかなか普及してこなかったeスポーツですが、その可能性や利点、魅力の部分がしだいに認識され始めており、
そして、10~20代の学生がeスポーツ人口の中心となっていくことからも、学校教育の場においてeスポーツを正しく指導・教育していく必要性が出てきています。
eスポーツと学校教育
eスポーツと教育の結びつき
eスポーツを専門的に学べる学校や授業に取り入れる学校、部活動としてeスポーツ部を認定する学校が少しずつ増えてきています。
eスポーツに積極的な学校
高校では日本初のeスポーツコースを開設し、eスポーツを実践的に学べる。
秋葉原ITキャンパスで企業と連携し、eスポーツの授業を開講した。
普通科のメディア情報コースにeスポーツ専攻を開設した。
eスポーツ部の認定し、部活動として取り入れている。
eスポーツ部員150名以上、2018年アジア大会で金メダリストを輩出した。
eスポーツを部活動として認定する学校は、通信制や定時制の高校で増えている一方で、全日制の公立学校ではまだまだ普及していない現状があります。
一方で、2019年10月の国体(国民体育大会)で初めて「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が開催されるなど、全国的にはeスポーツが高校教育の場で広がりを見せています。
eスポーツ発足支援プログラム
株式会社サードウェーブレンタルが実施する、「高校におけるeスポーツ部発足を支援するプログラム」を活用する高校が増えています。
eスポーツ発足支援プログラムとは、ゲームプレイに必要な高速通信回線とルーター、ゲームプレイング用のPC3台を2年間無料(3年契約)貸し出しするというもの。2018年には全国の高校78校から申し込みがあった。
(「eスポーツ発足支援プログラム」/株式会社サードウェーブレンタル)
eスポーツ部設立の障害として、「ゲームに公費を使うべきではない」という批判的な意見や「校内通信回線の設定が煩雑」といったものがあり、それらを上手くフォローしてくれる企業サポートといえます。
eスポーツで身に付く力
バーチャルコミュニケーション能力
eスポーツはチーム・団体で競うタイトルも多く、同じ目標のために行動することから、チームワークや自己表現といったコミュニケーション能力が培われます。
ポイントは、リアル社会とは違い、「相手の表情が見えないバーチャル空間でのコミュニケーション能力」が培われるという点です。
「目は口ほどに物を言う」という言葉があるように、表情からは言葉以上に相手の気持ちを読み取れることがあります。
その表情というコミュニケーションツールがないなかで、相手の気持ちを推し量り、目的のために自分の考えを伝えるということは、今後さらなる情報化が進む社会において、必須の能力だといえます。
論理的思考力(プログラミング的思考力)
論理的思考力については、こちらの記事でも詳しくまとめています。
2020年から小学校で全面実施される新学習指導要領のなかで、重視されている力の一つが思考力ですが、eスポーツのように「目的のために解決策を実行&改善していく」という試行錯誤の繰り返しは、論理的思考力を養ってくれます。
楽しみながら思考力を鍛えられることはもちろん、さまざまな場面で応用しながら思考を繰り返すことで、より実用的な思考力を高めることができます。
eスポーツと学校の授業
eスポーツ×プログラミング教育
eスポーツと教育の関係を考えるうえで、まず中心となってくるのが「プログラミング教育」です。
プログラミング教育は2020年から小学校で必修化され、GIGAスクール構想によって中学校、そして小学校に一人一台PCが順次行き渡る予定です。
eスポーツ導入の妨げとなっていたPCとLAN環境というハードとソフトの両面が整備されること、そして、課外授業ではなく配当時間内の授業として、PCを扱う機会が増えることで、eスポーツが学校教育との結びつきを深めていくでしょう。
そういったなかで、eスポーツの真価が発揮されるのが企業との連携です。
eスポーツは、ゲームコンテンツを制作する企業によるマーケティング施策の側面も強く、そのため、企業は学校教育に認められようと、特別セミナーや実践的な授業に積極的な姿勢を見せています。
たとえばプログラミングも、実際にゲームを開発しているプログラマーから直接指導を受けられたり、ゲームデザインや商品企画といった学校では学びにくい専門的でクリエイティブな授業も受けられたりする機会が増えます。
eスポーツ×英語教育
プログラミング教育同様に、eスポーツと関係が深いのが「英語教育」です。
2019年11月に、北アメリカを中心にeスポーツの教育機会を開発する「北米教育eスポーツ連盟(NASEF)」が、「eスポーツを通して若者に対する教育機会創出と拡大」を目的として日本支部を開設しました。
具体的な教育現場での活動案として、次のようなことを挙げています。
日本と米国の高校生を対象に、eスポーツを中心に設計された交換留学や海外研修、短期トレーニングなどの教育プログラムを実施する。 日米間で、教育者同士の情報交換や学術訪問・視察、また共同研究に取り組む。 (参照:
つまり、eスポーツを通して、日本とアメリカで様々な教育交流が増え、英語という語学を実践的に学習する格好のツールとなり得るのです。
eスポーツ×ICT教育
最後に、eスポーツはICT教育との親和性が高いという特長があります。
ICT教育は、言語や障害の有無、遠隔地といった障壁をなくし、等しく教育機会を与えることに寄与しますが、
なかでもeスポーツは、子どもたちの学習へのやる気や積極性を高め、論理的思考力やコミュニケーション能力といった「生きる力」の向上にもつながります。
ローカル5Gサービスの開始にもより、ますます学校現場はICT化が進み、様々な授業形態が増えていくなかで、eスポーツという手段が持つ可能性は大いにあると考えられます。
5Gと教育についてはこちら!
ソサイエティ5.0と教育についてはこちら!