今年の4月から、5年ぶりに小学校の教科書が新しくなります。
新学習指導要領下で初の改訂となるため、様々な点で教科書が変わる予定ですが、なかでも児童生徒が読みやすい、学びやすいものを目指す「ユニバーサルデザイン」の観点が取り入れられていることがポイントです。
とくに、文字の見やすさは学習に多大な影響を及ぼすことから、今回新たに開発された「UDフォント(ユニバーサルデザイン書体)」の意義は大きく、誰もが平等に教育を受けられる社会を目指すためにも必要不可欠な要素といえるでしょう。
そこで今回は、新課程の教科書で導入されることとなった「UDフォント」について、各教科書会社がHP上で公開している情報をもとに、初めてその言葉を聞いた保護者の方にもわかりやすくまとめてみました。
UDフォントと従来書体の違い
UDフォントのロゴマーク
UDフォントとデジタル教科書
UDフォントで変わる学校教育
目次
UDフォントとは?
UDフォントとは、「ユニバーサルデザイン書体」の略称であり、もともとは高齢者や識字障害を持つ方にも読みやすい書体として開発されました。
新しい教科書で使用される予定の書体は、このUDフォントを教科書専用の文字であった「教科書体」に融合させることで「UD教科書体」として新たに生まれ変わらせたものです。(以降、この記事内で「UDフォント」として説明しているものはすべて「UD教科書体」を指しています。)
UDフォントと従来書体の違いを比較する
UDフォントと従来の書体を比較してみました。なお、実際に文字がどう変わるのかを知りたい方は、下記のサイトから好きな文字を入力して確認することができます。
【「UDデジタル教科書体」/モリサワ】
UDフォント
従来書体(教科書体)
ご覧いただいたとおり、従来の書体が細くしなやかなのに対して、UDフォントは全体的に丸みをおびていて、手書きの文字に近い印象なのがわかります。その理由として、次のような学習者に配慮しているからです。
・尖った文字にストレスを感じる
・画数の多い漢字が読みにくい
・音読に苦手意識がある
・本を読むと疲れる
これらはディスレクシア(読字障害・書字障害)と呼ばれる学習障害の一種で、知的能力や勉強不足とは無関係のものとして考えられています。
【参考:「ディスレクシアとは」/国立成育医療研究センター】
そのような子どもたちやロービジョン(視力が非常に低い状態)の子どもたちが文字を判別しやすいように配慮することで、誰もが等しく取りこぼしのない平等な教育を目指しているのです。
関連記事はこちら!
UDフォントの字体について
ちょっとした豆知識ですが、実は制作している会社によって、教科書のひらがなや漢字の字体が微妙に変わっていることがあります。(あくまでも前年度の教科書の情報なので、新年度からの新教科書では変更となっている可能性があります)
これらは、いずれも各教科書会社が「学習者にとって見やすく、書きやすい文字」を追求した結果であり、同じ「UDフォント」であってもそれぞれ独自の調整が施されたオリジナル書体でもあるのです。
ひらがなの「た」の違い
UDフォントのロゴについて
書体の違いは一般の人にとっては分かりづらいことから、ユニバーサルデザインに配慮していることを示すロゴマークがあります。
UDフォントのロゴマーク
株式会社イワタ
|
株式会社モリサワ
|
株式会社タイプバンク
|
株式会社モトヤ
|
株式会社SCREEN
|
また、ユニバーサルデザインの考えはあらゆる商品に共通しているため、最近では「UD」のロゴマークが付いた商品が増えてきています。これらは、どんな人にとっても「見やすく、使いやすいもの」でもあるため、ユニバーサルデザイン非推奨の商品と比べても使い勝手に優れた商品だといえます。
UDフォントとデジタル教科書
UDフォントはなにも紙の教科書だけで使用されているわけではありません。
学校教育法等が改正されたことを受けて、今回の新課程から紙の教科書とあわせて「デジタル教科書」も授業のなかで使用していいこととなりました。
そのため、各教科書会社はデジタル教科書を制作し、UDフォントをデジタル教科書用にアレンジした「UDデジタル教科書体」という新たな書体を導入しています。
UD教科書体とUDデジタル教科書体のちがい
デジタル教科書はパソコンやタブレットといった電子画面上で文字を見ることから、次の点で配慮をする必要がありました。
高解像度の電子画面上でも正しく再現され、拡大や引き延ばしも可能なもの。
文字学習の一環として、タブレットのタッチペンで文字をなぞる場合に、画面にペンが触れる面積が大きいため、手書きと比べてズレが生じる。
従来のビットマップとよばれる細かい点で表現されていた文字とはちがって、デジタル教科書体は高解像度のタブレットやPCにも対応できるように、最近になって開発された書体であり、
正しく文字学習をしていかなければならない学校教育の場において、デジタル教科書やICT教材を導入していくためには、この「デジタル教科書体」はなくてはならない存在なのです。
UDフォントで変わる学校教育
UDフォントが教科書を中心に、学校教育の場に導入されることのメリットとはなんでしょうか。ここでは3つのメリットが考えられます。
UDフォントのメリット①「生徒の学習意欲・学習効果が向上する」
UDフォントを小中学校で導入している奈良県生駒市でおもしろい調査結果がでました。
「通常の教科書体で書かれたテスト」と「UDフォントで書かれたテスト」を生徒にそれぞれ解いてもらい、その結果を比較してみたところ、驚くべきことに「UDフォントで書かれたテスト」のほうが正答率が15%以上も上昇したのです。
【参考:「ねとらぼアンサー」】
UDフォントは「誰にとっても見やすい文字」を体現したかたちですが、それによって、多くの生徒の文字の認識力を高めることに成功したといえるでしょう。
また、「UD書体は文字が見やすくて、やさしそうにみえる」といった意見もあるように、従来の教科書体にあった難しい印象が払しょくでき、結果的に子どもたちの学習意欲、モチベーションの向上につながっていきます。
当然、学習意欲が高ければ高いほど得られる学習効果も大きいことから、文字のイメージアップがそのまま子どもたちの学力向上へと直結していくと期待していいでしょう。
UDフォントのメリット②「目の疲れなどの身体的負担が少ない」
UDフォントは従来の書体と比べて文字の形が分かりやすく、視認性が高いという特長があります。そのため、小さな文字であっても文章が読みやすく、誤読を防いでくれます。
子どもは毎日たくさんの文字に触れます。大人は慣れているため、文字を見て瞬時に「何の文字か」を考えることなく理解し、言葉や文の読み取りに頭が切り替わりますが、子どもはそうはいきません。
とくに、小学校低学年では、点や線を結びつけて、頭の記憶とその記号を照合させてはじめて「何の文字か」を認識するため、多くの労力を要します。
そのような作業をよりスムーズに、目や頭の負担を少なくするためにも、子どもたちにとってUDフォントの見やすさは大切なのです。
UDフォントのメリット③「みんなが見やすくて、平等である」
最後に、UDフォントの最大のメリットは、先ほどから申し上げてきた「だれにとっても見やすい文字である」ということにちがいありません。
ちょっとした文字の差によって学習機会が失われてしまうことは避けたいですし、少しの配慮で子どもたちの学びに向かう姿勢や態度が変わるのであれば、われわれ大人たちは改善していかなければなりません。
きっと数年後には当たり前になって、UDフォントという言葉自体がなくなるかもしれません。ですが、むしろそれこそが誰もが学びやすくて暮らしやすい、「ユニバーサルデザインな世界」の実現であり、社会全体が一丸となって目指すべき姿であるはずです。
近年の中学入試国語科では、大学入試改革の影響を受けて思考力系の問題を出題する学校が増えています。今後は知識での差はつきにくく、思考力を問う問題の出来不出来が受験の結果を左右しかねない状況です。どんな問題が出題されるか気になる方は、Z会の無料資料請求で「ほねぶとワーク」という思考力系の問題だけを集めた問題集がもらえるので、この機会に情報収集に利用してみてください。中学受験コースで資料請求すると「最難関6